カンボジアクロマーマガジン26号
カンボジアの淡水魚
インドシナ大地の形成と大河メコンを有する集水域の生物多様性
1915年にA.L.Wegener氏の「大陸移動説」が提唱されてから大陸形成のプロセスはその後徐々に紐解かれてきました。約1.4億年前にインドシナ半島(インドシナ地塊とシブマス地塊)は遥か遠いゴンドワナ大陸から離れ、ローラシア大陸に衝突し、それ以降も地形は徐々に変化しながら、チベットを水源とする全長約4,500kmの大河メコンの流れと共に形成されてきました。このような歴史をもつインドシナの生きものたちの多くはメコン河流域が形成されていく中でローラシア大陸要素をもつ生きものと混ざり合いインドシナ特有の生物群が誕生したとされています。その中でも魚類とりわけ淡水魚は世界でも有数の種類数を誇ります。メコン河は6カ国を跨いで流下する大河川で、流域にはまだ大自然が残り、長い戦乱が影響したこともあり、近年ようやく各分野の専門的な調査がなされ、生きもの全体で毎年1,000種類にも及ぶ新種が発見されているそうです。そんなインドシナの大地であるカンボジアへ来られた方々には是非、この多様性に満ちた大地を存分に味わっていただきたいです。
メコン河とトンレサップ湖の存在
カンボジアを訪れた方であれば、一度はメコン河やトンレサップ湖の名を聞いたことがあるかと思います。メコン河は前記したように国際河川であり、国内を南北に約486kmの長さで縦断し、雨季の最大水量は乾季の約20倍にもなります。また、メコン河はただの大きな河ではなく、幅約16kmにも及ぶ何段もの滝があったり、砂地ばかりの場所や、岩礁地帯など様々な顔をもっています。中でも、ディープ・プールという水深の深い水域が北部に58ヶ所あります。(MRC 2002)その最深部は約60mもあり、とても川とは思えない環境です。この様に多様な河川環境をもつ水域だからこそ、生きものたちも多様性に満ちているのでしょう。
このメコン河と共に多くの生きものたちにとって重要なもう一つの水域が東南アジア最大の湖トンレサップ湖です。乾季の湖面積は約2,500 k㎡ですが、雨期には最大で約16,000 k㎡(Rainboth 1996)近くまで増大し、逆流したメコン河の水とトンレサップ湖集水域(国土の約47%)から水が集まります。もう少しわかりやすく言うと、乾季の湖の長さは160km、幅35km、水深0.5-1.5mであるのに対し、雨期には長さ300km、幅100km、水深10-14m(MRC 1992)に増大し、コンポン・チュナン州の観測地点では最高水位と最低水位の差は毎年約8mの増減(MRC 1993)を繰り返しています。
この様に湖の大きさがここまで大きく変わる原因は湖周辺がメコン河と比べて高低差があまりない事と、この地特有の南西モンスーンがもたらす膨大な降雨によるものです。
また、この湖は誕生してからまだ5,000年程しか経っていない新しい湖ですが(参考:琵琶湖の原型が誕生したのは約4百万年前といわれています)、様々な条件が整って誕生したトンレサップ湖は毎年多くの生きものが新しい生命を育む重要な水辺となっています。この両水域に多様な生きものが見られるのは互いの存在があってこそ成り立つシステムだということがいえるでしょう。
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