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カンボジアクロマーマガジン5号

クメールの手仕事

[取材・文] 多賀 史文/佐藤 悠衣  [写真] 多賀 史文/佐藤 悠衣   [制作] 多賀

蘇る幻の胡椒 カンポットペッパー

文:大坂 知貴 Osaka Tomotaka (Japan Overseas Cooperation Volunteers)
取材協力:Sothy’s Pepper Farm / La Plantation

 カンポットペッパーは、カンボジアを代表する名産品のひとつ。100年以上前からヨーロッパを中心に広く流通し、フランスの一流レストランでも好んで用いられてきた。「普通の胡椒をテーブルワインとするなら、カンポットペッパーは極上のボルドーワインだ」と「タイム」誌が評するほどの最高級胡椒。その美味しさはどこからくるのだろうか。

 

カンポットペッパーの歴史

 カンポット地方での胡椒栽培は、13世紀に中国(インド説あり)からの移民が持ち込んだと言われている。その後長い間細々と続けられてきたが、フランス植民地時代になってから、その評判が世界的に広まることとなった。
 そのきっかけとなったのが19世紀の半ば、あるフランス人がカンポット地方の農場で「見慣れぬ果実」を発見したことに始まる。それを採集して本国へ送り調査したところ、非常に良質な胡椒であることが判明。すぐに本国主導のもと、大量栽培が開始された。そして世界中に輸出され、「最高品質の胡椒」として世の食通に愛されるようになった。
 だが70年代、カンボジア内戦によって胡椒農園は崩壊。カンポットペッパーは「幻の胡椒」となってしまう。しかし、内戦終了後、カンポットに戻ってきたかつての胡椒農家たちが「もう一度、カンポットペッパーを世界に送り出したい」と立ち上がり、親から栽培の技術を受け継ぎ、外国からの支援も受けながら、かつての胡椒栽培を復活させていった。こうして復活したカンポットペッパーが、今再び世界にその名を知らしめているわけである。

 

なぜカンポットなのか 

 カンポット州にあるソティーズ・ペッパーファームの場主ノーベルト氏は、以下のように語った。
「カンポットペッパーの味は、決してほかの地方で生み出すことは出来ません。この地方には、美味しい胡椒を生み出すベストな条件が揃っているのです。胡椒は低温に弱く、熱帯での栽培が不可欠です。さらに、成育に十分な水が必要なため、大量の雨水も必須となります。国内でも雨量が多く、年中気温の高いカンポット地方は、胡椒栽培に最適な環境というわけなんです。」
 条件が「熱帯気候」「雨量」だけなら、世界の他の地方でも栽培できそうだという疑問に、ノーベルト氏はカンポットの土壌こそが、その秀でた美味しさの秘密だと強調する。
「カンポット地方には、石英を多量に含んだ特殊な岩があり、ミネラルの豊富な石灰質土壌を作り出しています。この土壌は程よい保水性・排水性を兼ね備えており、雨が多く降っても根が腐らないよう、土の中の水分を適度なレベルに調整してくれる。これによって元気な胡椒の木の成長を促進し、味わい深い胡椒が育まれるというわけです。」

 

徹底した品質管理

 現在、カンポット地方の胡椒農家は、共同でカンポットペッパー協会(KPPA)を設立し、品質管理・販売管理につとめている。彼らが定めた厳しい栽培基準を満たしたものだけが「カンポットペッパー」の名を冠することを許される。世界最高を守るため、栽培方法も品質重視。隣国や国内の別の地域では、実を早く育てるため農薬や化学肥料が用いられることが多いが、カンポットペッパーは、無農薬・天然肥料の有機栽培が徹底されている。また古くは、近くの洞窟で採れる蝙蝠の糞を肥料に用いており、現在一部の農園では古の味を再現しようと、この手法を取っている。
 しかし有機栽培ゆえに、栽培はとても手間がかかって難しく、熟練した技術を持つ農家の力が不可欠。こうした150年にも渡り蓄積されてきた経験は、一度内戦で途絶えてしまったものの、幸い現代へと受け継がれた。

 

カンポットペッパーの魅力

 カンボジアの市場には安価な外国産の胡椒が溢れかえっているが、多くは大量に化学肥料や農薬を使ったものであり、あまりおすすめできないものも多い。
 少し高価に感じられるかもしれないが、ぜひ一度、カンポットペッパーを味わって見て欲しい。その味は安物の胡椒とは比べ物にならない。
 カンポットやプノンペン、シェムリアップのレストランでカンポットペッパー料理を味わうのも良し、スーパーなどで購入し、自宅で料理に使うのも良いだろう。
 黒胡椒をステーキに振りかければ、肉の味が一層引き立つ。生胡椒の塩漬けはお酒のおつまみにしても良いし、海鮮類と炒めても美味しい。様々な食材との組み合わせで、料理のバリエーションは無限に広がる。
 たかが胡椒、されど胡椒。カンポットペッパーは、きっとあなたの食生活に彩りを加えてくれるはずだ。

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