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カンボジアクロマーマガジン38号

写すシリーズ
トンレサップ湖を写す
樋口 英夫 (ひぐち ひでお)

氾濫に合わせて家を移動させる。(写真集『Angkor Sacred Mountains of Kings』より)

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 山頂遺跡で有名なプノンバケン。ここに登るとアンコール平原が一望できる。東南方向には、至近距離にアンコールワットの端正な姿がある。そこから地平線に目をやると、陽光を白く反射した湖面が確認できる。東南アジア最大の湖トンレサップだ。湖面の広さは2,500km²。東京都の面積(2,188 km²)を上回る。といってもこれは乾季の話、雨季には湖が氾濫して湖面が8倍に広がる。九州とまではいかないが四国の面積を軽く越す。これほど激しい氾濫が「過去5,500年間ずっと繰り返されてきている」と湖底の堆積層を分析した学者はいう。湖周辺の人たちも、この事態を天災とは思っていない。彼らの家は洪水を見越して、見上げる高さの超高床式住居だったりフローティングハウス(浮き家)だったりする。


 世界的にも珍しいこの大規模な氾濫は、メコン川によって引き起こされる。湖はトンレサップ川を介してメコン川とつながり、乾季には湖水がメコン川に注いでいる。ところが雨季(5月から11月)になるとメコン川は激しく増水し、川の水位が日ごとに上昇する。やがてメコン川の水位が湖面よりも高くなる日がやってくる。これを機にメコン川の水は湖に向かって流れ出す。トンレサップ川が逆流するのである。メコン川は増水で目一杯膨張している。そこにガス抜き口のように、突破口を得たわけだから、もの凄い量の水が湖に向かっていく。ところが、この湖の形がまた変わっていて、押し寄せてきた水をまったく貯めることができない。

 

 じつは、乾季なら湖の真ん中に飛込んでも背が立つくらい底が浅い。平たいパン皿みたいな形状だ。そのうえ陸上と水面の高低差はほとんどゼロ。それはまるで舗装道路に広がる水たまりのように、真っ平らな大地にだらーっと薄く広がっているだけなのである。だからメコン川の水が押し寄せてきても受け止めることができず、ただひたひたと湖面を広げていく。ただし氾濫の水量が膨大なため、乾季の湖面にあたる場所の水深は10mを超す。

 

 600年前にアンコールの宮廷を訪れた中国の使節が、トンレサップ湖の氾濫を目撃している。「雨季には湖岸の樹林がことごとく水没し、高木だけがわずかに1本の梢を水面に見せている。湖岸に居住する人たちは山のうしろに移動する。農民は湖の氾濫がいつどこまで達するかを知っていて、氾濫の水に合わせて稲作をする(『真臘風土記』を要約)」

 

 この稲作はいまも続く「減水期稲作」の手法だ。雨季が明けるとトンレサップ川の逆流は収まり、広大に氾濫していた水はメコン川に引き戻されるように、時間をかけてゆっくり縮小する。このときほどよい水深になった地面に田植えをし、水田として利用する。すっかり水が引いてしまったときには、稲は成長していて、水は不要になるというわけだ。トンレサップ湖のそばのプノムクロム遺跡に向かうとき、道路の左手に見える田んぼがこれである。

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見上げる高さの高床式住居


樋口 英夫 (ひぐち ひでお)

写真家。アンコール遺跡にかかわる著書に『アンコールワット旅の雑学ノート(ダイヤモンド社)』『チャンパ(めこん)』『風景のない国・チャンパ王国(平河出版)』『7日で巡るインドシナ半島の世界遺産(めこん)』がある。
アンコール・ナショナルミュージアムでオリジナルプリントが購入できる。
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