ホーム 過去のマガジン記事 人生迷走中: 第18回: たまには日本でリフレッシュしよう

カンボジアクロマーマガジン41号

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 プロフィールで「プノンペンの土を踏んで早十うん年」とか言ってる私だが、勘定したら20年目に突入していた……。もっとも、一年のうちふた月以上は日本で過ごすことにしているので(理由は後述)神経質に数えたらまだ大台には乗っていないのだが。

 私が初めてカンボジアに来たのは1995年。プノンペンは道行く人の目も三角形、荒れ放題のひどいところだった。

 泥棒に入られたこともあるし、泥棒が盗んでいる現場を目撃したこともある。道では銃を突きつけられ、ひったくられ、轢き逃げもされた。

 とにかく散々ひどい目に遭った私は一時期、虐められた猫も真っ青の病みっぷり。針の落ちた音を聞いただけでナイフを抜いてしまうような、病的な警戒心が骨の髄まで染み付いてしまった。

 それから10数年。プノンペンは平和になり、恐らく南千住より裕福で治安も良くなった。私もかつてのバイオレンスな日々をすっかり忘れていたわけだが、ある朝ふと、心の闇の奥底に眠った本能が呼び覚まされるような、ちょっとした出来事があった。

 二年くらい前だろうか、今はやめたが、あの頃は毎早朝の散歩が私の日課だった。

 早朝といっても朝型の人が多いプノンペンは、朝5時を過ぎると交通量が一気に増えてがぜん騒がしくなる。なので、静かに歩きたい私が家を出るのは概ね午前4時過ぎだ。

 朝4時といったら、さすがに空も町も真っ暗である。シャッターを持ち上げて外に出ると、家の周りはしんと静まり返り、オレンジ色の街灯に照らされた寂しげな通りも人の動きなど皆無である。

 夜空を見上げ、深呼吸したそのときだった。突然路地からライトを消した2人乗りのバイクが音もなく飛び出し、気がついたときには私の目の前に迫っていた。

 運転手もバックシートの男もマスク姿、目だけが爛々と輝いている。ヤバイ! 逃げようにも近すぎるし、シャッターを閉める余裕すらない……。と、バックシートの男が何やら新聞紙を丸めたような筒状のものを手にするや、バイクを飛び降りこちらに迫ってきた。

 私は反射的に、左手に握っていた長さ50センチ程の──銀行の警備員が持ってるような──超特大マグライトを振り上げ、男の頭上にそれを振り下ろした。

 その瞬間、後ろにのけぞり、すんでのところで一撃をかわした男が悲鳴を挙げつつ何歩か飛びのき、震える手で新聞を差し出した。

 そう。私は罪もない新聞配達を、あと数秒であの世に送ってしまうところだった。バイクのライトは単なる故障。なんつーか、我ながらランボー(第一作)並みのマジキチぶり。皆さんもこうなる前に、日本でリハビリしたほうがいいっスよ。ホントに……。

 


クーロン黒沢(くーろん・くろさわ)

プノンペンの土を踏んで早十うん年。
著書に「裏アジア紀行(幻冬舎)」「エネマグラ教典(太田出版)」「乱世のサバイバル教典(太田出版)」「デジタル・スーパースター列伝(ILM)」など。生活のため、日々冒険を続けてます。新刊「アジアの路地裏に魔界を見た!」ほか、アマゾン・キンドル専用の海外脱出情報誌「シックスサマナ」発売中。
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