ホーム 過去のマガジン記事 いせきを護る人たち: 第五回 現場担当者の声 吉川 舞氏

カンボジアクロマーマガジン39号

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第五回 現場担当者の声 吉川 舞氏

 

北海道で育まれた豊かな感性

 

 

吉川舞さんが、自然豊かな北海道の大地で生まれ育ったことは、その後の吉川さんを大きく方向付けている。吉川さんは考古学を志して大学に入り、民俗学に目覚めたという。そして「地域と遺跡」、「モノじゃない考古学」に傾倒した。その後、世界遺産を求めて欧米を旅する中で「何か違う」という物足りなさを覚えた。
 筆者の私見だが、遺跡の護り方には多様な方法論があっていい。そこで今回はコンポントム州にあるプレアンコール期を代表するレンガ造遺跡群であるサンボー・プレイ・クックに10余年に渡り恋し続ける吉川さんに登場をお願いした。

 

19歳の夏のカンボジア

 

 大学で「カンボジアの文化遺産の保全とまちづくり」という講座を受講した。これが契機となり04年9月にカンボジアを初訪問した。プノンペンから入国し、アンコール・ワットを見る前に、最初に見たサンボー・プレイ・クックで遺跡の洗礼を受けた。そこで「上昇気流を掴む」そんな感覚を覚えたという。この経験が吉川さんのその後の人生を大きく変えることとなった。帰国後は仲間3人でボランティア団体「Ju ‐ Ju」を立ち上げカンボジア再訪を果たし、カンボジアへ通い続けた。大学を卒業し08年4月から遺跡修復チームの現地広報を担当した。年間1000名以上を遺跡へ案内し、灼熱の太陽の下現場で笑顔を振りまくその姿はバイヨンの華となり非常に印象的であった。その一方で、「森の遺跡」と吉川さんが呼称するサンボー・プレイ・クックにも通い続けた。

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ナプラ・ワークス

 

 14年4月「皆でハッピーになる仕組み」つくりを目指してナプラ・ワークス代表となった。吉川さんの言葉を借りると、「来た人も楽しい、迎える人も楽しい」というあり方を模索し、「遺跡と現代人とのかかわり方」に感心を寄せているのだという。今後は「旅行をもっと意味あるものにしたい」、そして「遺跡の魅力を伝えたい」と力強く抱負を語る笑顔が眩しい。今後吉川さんの仕掛けるツアーを経験した若者の中から、第二第三の吉川さんが生まれてくることを予感させる。

 

筆者からのエール

 筆者の目に吉川さんは、大きな課題に対して正面から取り組んでいる、そんな印象を持った。吉川さんには不思議なエネルギーがあり、持続可能な元気力を持つ。遺跡観光に新しい風を起こす、そんな期待感を持たせてくれる。サンボー・プレイ・クック遺跡群は16年以降、カンボジアで三番目の世界遺産となる可能性があり、今後更なる注目を集めることが確実視される。「保全と観光の快適な関係」を目指すパイオニアとしての吉川さんにエールを送りたい。

 

吉川舞(よしかわ・まい

1985年北海道札幌市生まれ。2008年早稲田大学卒業。同年より日本国政府アンコール遺跡救済チームの現地広報を務める。2014年よりNapura-Works代表。2015年発行の地球の歩き方「arucoアンコール・ワット編」の遺跡監修を担当。

 

三輪悟(みわ・さとる)

1974年東京生まれ。1997年よりアンコール遺跡国際調査団に参加。1999年日本大学大学院修士課程(建築学専攻)修了。現在、上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者。

 

上智大学アジア人材養成研究センター

上智大学の石澤良昭教授が所長を務める研究機関。『カンボジアの文化復興』と題する報告書を1984年より年度毎に刊行している。「カンボジア人による、カンボジアのための、カンボジアの遺跡保存修復」をモットーとし、当初より一貫してカンボジア人の人材養成の重要性を説き、継続的に活動を展開している。

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三輪悟(みわ・さとる)

1974年東京生まれ。1997年よりアンコール遺跡国際調査団に参加し、カンボジアを訪れる。1999年日本大学大学院修士課程(建築学専攻)修了。同年よりシェムリアップ駐在を始める。現在、上智大学アジア人材養成研究センター現地責任者。

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