ホーム 過去のマガジン記事 プノンペンの風景: 第16回:メコンの風にのって

カンボジアクロマーマガジン25号

 

仕事でいや~な事があった時、子供の事で悩んだ時、私は時々夕刻のトンレサップ河沿いに繰り出す。

 無機質な事務所から解放され、車やバイクの雑踏を縫ってひたすら河を目指す。やがて、その雑踏からも解放される。河縁に辿り着き、それでもなお物売りや道路を通る車やバイクの騒音がうるさく感じると、舟を探して、メコン河まで繰り出してもらう。季節によっても違うが、1時間10ドルから20ドルで10人以上は乗れるだろう舟を一艘出してくれる。
 値段交渉が終って舟に乗り込むと、あれれ、なんだか頭数が多い。前回の舟は先頭さんの中学生の息子が手伝いで舟を操っていたけれど、今回の舟は家族みんなで乗り込んでいる? 話を聞いてみると、上の子2人は成人して独立しているが、下の娘、息子は、ほらこのとおり。小学生の娘は舟を掃除したり、パンツをはいていない幼い弟の面倒を見たりしている。初めは私より老けて見えた船頭さんの末の息子は、まだ4歳。
 小さな子も家業のためにはよく働く。漁業と遊覧船業で、子供たちはちゃんと学校に通えているのだろうか。家はどこなのだろう。ふと舟上の小屋を見ると家財道具一式が積み込まれている。
 運転手付の車で送迎をしてもらいiPhoneを持っている子も、この漁師の子も、またカンボジア人。

 思い出すのは、コンポンチュナンから牛車で陶器を売りに来ていた家族。13歳の男の子が六年生で学校を辞めている。家業を手伝わなければいけないがために学校を辞めざるを得なかったのか、お金がなくて通学できないために家業を手伝っているのか、どっちだろう。
 舟の上で、ちょっとじゃまっけなちび達と一緒にメコンの流れを眺めていると、自分の悩みは贅沢な悩みなのかもしれないな、と気に病んでいたことがメコン河上を流れる風に乗って飛んでいく。
 ・・・もし、このオンボロ舟が沈没したら何に食われてしまうんだろう。メコンにはナマズ系の大魚もいるらしいし、と水面下の生態系を想像してぞっ~としつつ考える。彼らはこの面倒な人間たちの事を目にもかけず、自分がどれだけの間生きるのかなんて考えることもなく、自然に身を任せ、なすがままに生きている。


いしもと ゆみ

89年に一度カンボジアへ渡航。92年に日本のNGO職員としてプノンペンに赴任以来、援助関連業務に携わるが、04年から企業に勤める。プノンペン生まれの一女一男の母。

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