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カンボジアクロマーマガジン43号

私の1975~1979-名も無き人々の「ポル・ポト時代」回想録-

[取材・文] 矢羽野 晶子 [制作] 田中 友貴 (クロマーマガジン編集部)

一日が一年のように感じられた

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名前:モム・ティエン
年齢:74歳(1941年生)
出身:スヴァイリエン州

  出身はスヴァイリエン。辺り一面田んぼで、とてものどかなところでした。家族は自分の土地を持っていて、稲作農業をしていました。子供の頃は兄弟たちと近くの村に行って、綱引きとか伝統的な遊びをしましたね。窃盗や事件もなく、本当に平和でした。

ベトナム戦争の激化とともに
 30歳の頃(1970年頃)、私の村にポル・ポト軍が入ってきました。当時は「クメール・ロムドゥ」と呼ばれていましたね。ちょうとベトナム戦争が激化してきている時で、ベトナム国境の村には爆弾が落とされていました。彼らはその頃からこの地域を支配し始めていました。

1975年4月17日:34歳
 75年から1年間、私はテーラーとして働きました。昼夜なく黒い服を無数に作りました。一日に何枚作ったかは覚えていません。サイズは適当でした。
 ポル・ポト政権が始まる前に結婚して1人子供がいました。それから2児をもうけ、妻と3人の子供たちと家族5人で暮らしました。妻は昼間、労働に出るので、小さな子供たちは私の母が面倒を見ました。当時、子供たちの世話をするのは年老いた女性の仕事で、自分の子や孫以外も沢山見ていました。産後母乳の出る女性は、他の赤ちゃんにも飲ませていました。年老いて動けない老人は、食べ物を与えられずただ死を待つだけでした。

言葉も音もない世界
 当時、基本的に私語は禁止されていました。特に3人以上での会話は厳禁。見つかったら殺されます。私たちはただ黙々と仕事をしました。言葉も音楽もなく、静かで悲しい毎日でした。家でもほとんど会話がなく、子供も怖がって言葉をあまり発しませんでした。一日が一年のごとく長く感じられました。
 政権が倒れたことを知ったのは、解放から約1ヶ月経ってからのことです。私たち家族は故郷の村に戻りました。他の村民たちも帰ってきたのですが、皆とても痩せて服もボロボロで…。誰が誰か見分けがつきませんでした。
 家族は兄一人を除き、無事でした。兄はポル・ポト時代が終わる直前、突然軍に呼ばれ、手を縛られ目隠しをされて連れて行かれました。それから戻ってきませんでした。

知恵を出し合いお互いの身を守った

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名前:トゥーイ・マラエム
年齢:55歳(1959年生)
出身:シェムリアップ州

 私の父は建築士をしていて、地元の名士として周りの人たちに尊敬されていました。母は主婦で、私は裕福な家庭で何不自由なく育ちました。同居家族は祖父や親戚なども含めて総勢12人。7人兄弟のうち私を含めて5人が女だったので、いつもとても賑やかでした。学校では家庭科の授業が好きでしたね。

1975年4月17日:15歳
 当時私は中学3年生でした。私の地域の人たちは皆バンテイアイスレイ近くのクナークラウという村まで歩いて移動させられました。結局政権が倒れるまでの3年半、ずっとこの村に住みました。有力者であった父は、身元がわかったら粛清対象でした。そのため父は改名し、わからないように振る舞いました。幸い同じ村に父のことを慕う近所の人たちが沢山住んでいたので、父に危険が及ばないように助けてくれました。皆が生き延びるため、私たちは力を合わせてお互いの身を守り合いました。

猿や虎の肉も食べた
 作業は主に稲作をさせられましたが、時期によって作業場が違い、時にはとても遠くまで歩いて行かされました。食事は1日2食、お粥と塩だけでした。米の収穫ができない時期には、直径1mくらいのお鍋にカップ3杯だけ米をいれて、あとはキャッサバの葉を刻んでいれた粥でした。私の住んでいた場所は森が深く、時には兵士が野生動物を狩って来て、その肉も食べました。猿や虎、ウサギ、ヘビとか、象の肉もありました。

集団お見合い
 この時代は恋愛禁止で、男女の付き合いが軍に知られると、男性のほうが殺されていました。時々、年頃の男女が集められて、集団お見合いが行われていましたね。右に女性、左に男性が各10名くらいずつ並ばされ、兵士が勝手に相手を選んで結婚させていました。新婚初夜は、ちゃんと愛し合っているか兵士が寝屋まで見に来たみたいです。
 トンレサップ湖近くのプノン・クロムという山で農作業をしていた時「ポル・ポトはもういない」と聞きました。そこから村まで歩いて帰ったのですが、兵士はまだ残っていて、私たちを誘拐しました。私たちは夜こっそり逃げて、母や叔母たちと歩いてシェムリアップの家まで帰りました。

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