ホーム 過去のマガジン記事 カンボジア経済: 22回目:技術ジャンプの好例 カンボジア通信セクター

カンボジアクロマーマガジン32号

開発途上国では、道路、港湾、電力等のインフラ整備が不十分なことが、海外からの直接投資の誘致のボトルネックとなっている場合も多く見受けられます。その一方で、先進国では一段ずつ階段を上るように進歩してきた過程を飛ばして、最も先進的なシステムを導入する「技術ジャンプ」により、突然として安価で高品質なインフラ整備が進む場合があります。カンボジアの通信セクターはその好例です。
カンボジアの通信網は、光ファイバーケーブルとワイヤレスとIP(インターネットプロトコール)を基本としており、通信コストは世界でも最も安いと言っても過言ではありません。カンボジアの通信は、先進国がたどってきた道(この場合は固定回線網)を飛ばして、一気に最新式のシステム(光ケーブルとワイヤレス)を導入しており、コスト・利便性ともに、日本と比べても良い状況にあるとも言われます。

カンボジアでは、郵便電気通信省が通信事業も直営で行っていましたが、2006年1月にテレコム・カンボジアとして公社化し、民間各社の参入も認めました。
カンボジア国内には既に2万キロの光ケーブルが敷設され、国土の90%以上で携帯電話の通話が可能となっています。海外とは、タイ、ベトナム経由で接続されていますが、現在、カンボジアとアジア・アメリカ・ゲートウェイ(AAG)を結ぶ海底光ケーブルが建設中で2015年には完成の予定です。
カンボジアでは、通常1か国で3~4社の携帯電話会社が7社もあるため、激烈な競争が展開されています。

プノンペンのアップルショップのiOne。韓国メーカーと厳しい競争を繰り広げています。

プノンペンのアップルショップのiOne。韓国メーカーと厳しい競争を繰り広げています。

郵便電気通信省の発表によりますと、2013年の携帯電話SIM数は、2012年の1910万枚から5.8%増加して、2020万枚に達しました。カンボジアの人口は、約1468万人(2013年3月)ですので、多くの利用者が複数のSIMを保有していることとなります。米国の共和党国際研究所が米国USAIDと協力して毎年実施しているカンボジア世論調査の結果によりますと、携帯電話の保有率は、2013年に58%となっています(都市部79%、農村部51%)。増加の要因は、携帯電話は様々な用途に使えることと、携帯電話の低価格化であると分析されています。その背景として、カンボジアでは7社の携帯電話会社が厳しい競争を繰り広げていることも挙げられています。
なお、設備投資にコストがかかる固定電話の役割は限定的です。回線数も2012年の58万4475回線から、2013年には42万942回線と、28%減少しています。

インターネット利用者も急増しており、郵便電気通信省によりますと、2013年の利用者数は、2012年の約270万人から43%増の約380万人となっています。2010年には約32万人、2011年でも168万人でしたので、3年で10倍増以上となっています。

インターネットについても、無線アクセス技術の進歩と競争によって、加入数が拡大し、料金が下がっていると言われます。都市部では、多くのホテル、レストラン、カフェ、公共施設でWi-Fiが無料で使用可能となっており、東京と比べても圧倒的な利便性を確保しています。

日本企業の中にも、この十分な通信インフラとカンボジアの低賃金を組み合わせたビジネスモデルで活躍されている会社も出てきています。例えば、デジタル地図等で有名なメイホーエンジニアリングは、プノンペンで、図化作業や地図の編集、データ入力、写真切り抜きといった労働集約的作業を行い、データや製品はインターネット経由で日本とやり取りしています。
技術進歩が著しい、ITや通信では、開発途上国も技術ジャンプで一気に先進国に追いつくことが可能です。カンボジアでもこのセクターでの発展が大いに期待されます。


鈴木 博(すずき ひろし)

2010年にカンボジア総合研究所を設立。
2007年からカンボジアに住んでいます。
ブログ「カンボジア経済」もご覧ください。
ブログ: http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh

バックナンバー

facebookいいね!ファンリスト

クロマーマガジン

素敵なカンボジアに出会う小旅行へ―The trip to encounters unknown cambodia