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ホーム マガジン ちょいと気になるNGO探訪: 第15回 : カンボジアン・リビング・アーツ

カンボジアクロマーマガジン29号

 

ある国について思いをめぐらす時、なにをイメージするだろう。世界遺産に代表されるような、風景・建築の有形遺産。それに並び、無形遺産である 「伝統芸能」 も、その国のアイデンティティを大きく形作っている。日本であれば、日本舞踊、能、茶道など。これらは何世紀も脈々と受け継がれ、日本人の一部となった日本のシンボルとも言える。

 

例えばの話。あるときこれらが急になくなったらどうだろう。伝統芸能のなくなった日本を、私たちは想像できるだろうか。
カンボジアでは、それが現実に起こった。クメール・ルージュの時代、約200万人もの人々が殺された。中でも知識人・文化人は、国民総農民化とも言える政策を進めたポルポトにとって優先的に殺すべき対象だったのだ。親から子へ、子から孫へ。脈々と技を受け継いできたアーティストの、実に90%が殺された。フランス統治時代も生き残ってきたこの国の宝が、あろうことか自国民によって壊滅的な打撃を受けたのだ。

 

カンボジアン・リビング・アーツ(CAL)の創設者 アン・チョン・ポンは、クメール・ルージュの少年兵だった。当時、人の死に際を見届ける地獄のような日々を送ったポン。毎日泣きたくなったが、泣いたら自分も殺される、精神的にギリギリのところで生きていたという。そんなある日、村の老人にフルートを習ったのをきっかけに、ポンは軍楽隊のメンバーとなる。プロパガンダ音楽の演奏という役割を得た彼は、クメール・ルージュの終焉まで生き残ることができた。その後、ポンはアメリカに渡る。英語を学び、大学にも通うようになった。そんなある日曜日、ポンは教会で彼の過去を語った。その場の全員が泣き、ポンも泣いた。そして彼らのためにフルートを吹いたときに初めて、自分の音楽が人を癒すのを感じたという。クメール・ルージュのキャンプではありえなかったこの体験により、ポンは自分のやるべきことが見えた気がした。母国カンボジアに今、人々を癒すアートがあるだろうか…。自分にそう問いかけた。1996年、彼はカンボジアに戻り全土を旅する。そこで見たのは、かろうじて生き残っていたミュージシャンやアーティストたちが最低の暮らしに身を置く姿だった。彼らを、そしてカンボジア伝統芸能を守りたい。カンボジアン・リビング・アーツが誕生した瞬間だった。

 

1998年、CALの前身となる「カンボジアン・マスター・パフォーマーズ・プログラム」 がアメリカの支援によりスタート。4人のマスターアーティストのために、楽器・教室・給与を提供することで、次世代への伝統文化継承を支援した。その後は活動を拡大させ、現在では大きく3段階に分けて支援を実施している。第1段階として、 アーティスト志望者への教育・アートに関する意識教育の実施。次の段階に、 アーティスト候補生への奨学金・英語教育支援・発表の機会の提供。最終段階として、プロとなった人々のための発表の場(シアターなど)の運営・コンサート支援・CD制作販売などを行っている。

 

次世代のアーティストひとりひとりを教育し、ひとり立ちできる能力をつけさせる。アートが産業として成り立つ「場」をつくり、循環させる。16年間のこうした地道な活動によってCALはマスターアーティスト・生徒合わせ600人を超える規模になった。今年4・5月には、125人のアーティストがニューヨークへ渡り、カンボジア伝統芸能の祭典 「シーズン・オブ・カンボジア」を開催。2014年には、2年に一度の「カンボジアン・ユース・アーツ・フェスティバル」が予定されている。クメール・ルージュにより途絶えかけたカンボジア伝統芸能。CALの16年間の支援を経て、かつての繁栄を取り戻し始めている。

 

「カンボジア人、そして世界中の人にカンボジア文化をもっと知ってほしい」 「アートはその国の人々を映す。そして大切なことを教えてくれる」。カンボジアオペラのパフォーマー、ホーム・スレイミと、国立博物館でのショーの楽団リーダー、ノク・シナはそう語る。2人とも、CALの支援により、ゼロから伝統芸能を学んできた。今では「マスター」となった彼ら。その目はカンボジア伝統芸能の未来を見つめている。カンボジア・リビング・アーツの志は、確かに引き継がれている。

 

カンボジアン・リビング・アーツ Cambodian Living Arts
No.128G9, Sothearos Blvd, Sangkat Tonle Bassac, Khan Chamkamorn, Phnom Penh
Tel: 023-986-032
URL: www.cambodianlivingarts.org
E-Mail:admin[アットマーク]cambodianlivingarts.org

クロマー編集部

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