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カンボジアクロマーマガジン27号

冒険シリーズ
バイクをめぐる冒険:第3回
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

 アジア、とくにカンボジア、タイ、ベトナムを中心にしたエリアでは、バイクタクシーは欠くことができない交通機関である。都市インフラの一翼を担っているといってもいい。とくにカンボジアは、後部座席が改造され、アジアでいちばん乗り心地のいいバイクになっていた。日本製のバイクは、アジアの流儀にとり込まれていったわけだ。

 

 バイクタクシーはさらに進化していく。バイクは物流分野にも進出しているのだ。郵便制度がいまひとつ精度に欠けるアジアでは、製品や書類の受け渡しをバイクタクシーが担うことが多い。客を待つバイクタクシーを呼び、人の代わりに物を届けてもらうわけだ。アジアのバイクタクシーは、日本のバイク便の役割を担っている。企業によっては、専属のバイク社員を雇う。信用できるドライバーなら、支払いや売上の受けとりも任せることができた。

 バイクタクシーは医療の分野にもその触手を伸ばしている。タイのバンコクには、救急バイクが登場した。急患に対して、救急車が出るのだが、街なかは大渋滞。救急車の意味がなくなっていた。そこで医師がハンドルを握り、看護婦が後部座席に乗って駆けつけ、応急処置を施すスタイルが生まれた。病院への搬送が間に合わない出産などにも威力を発揮したという。急激な都市化が進むなかで、バイクは命を支えるものへと進化していくのだ。
 カンボジアでも医療バイクをしばしば見かける。主に田舎の村が多いだろうか。それを医療バイクといっていいのか、少し首を傾げてしまうのだが。体調を壊し、村の診療所に出向く。そこでの治療が難しいと判断されると、町の病院に向かうことになる。そこでバイクが登場するのだ。おそらくドライバーは、いつもは人を乗せているのだと思う。患者はバイクの後部に座るのだが、そのとき、診療所の医師は点滴薬を吊るした器具を患者に持たせるのだ。

 

 患者は点滴をしながら、病院に向かうのである。針は血管に刺さっている。

 

 この光景をカンボジアではじめて見たときは少し戸惑った。点滴用の支柱を手にした患者が、バイクの後ろに座っているのだ。
 しかし……と思う。日本では救急車のなかで同じことをしているわけだ。そういう設備が整っていないカンボジアの村のアイデアではないか。日本にしても、救急車の到着を待つぐらいなら、点滴をしながら病院に向かったほうが、はるかに早く本格的な治療を受けることができるエリアは少なくない。

 バイクに頼るアジアの暮らしを、後進性のようにとらえる日本人はいるかもしれない。しかし、みごとなまでにバイクを使いこなす発想の豊かさに、またひとつ、アジアを教えられるのである。
(この項続く)


下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年生まれ。旅行作家。アジア、沖縄に関する著作が多い。近著に『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』(新潮文庫)、『「生きずらい日本人」を捨てる』(光文社新書)。最新刊は『不思議列車がアジアを走る』(双葉文庫)
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