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カンボジアクロマーマガジン37号

冒険シリーズ
村をめぐる冒険:第1回
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

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その村はプノンペンから、車で2時間ほどのところにある。乗り合いバンで1~2ドルほど。メコン川に近い、カンボジアのなかではありふれた村といってもいい。
 世帯数は300軒ほど。農業を補うように家先で商売をしている家が多い。理由は村の中央を走る道がベトナムへとつながったからだ。雨季になると大変なことになった未舗装路が舗装されたのが4年ほど前である。
 村はそのころから変わりはじめた。それまで、道を走るのはバイクや自転車、そして馬車が多かった。ときおり、泥だらけの車が走り抜けることはあったが、さして気にもならなかった。しかし道が整備されたとたん、大きなトラックが姿を見せた。それもかなりのスピードで走り抜ける。そのたびに、近所のおばさんは肩をすくめるようなしぐさで、こういうのだった。
 「道が怖くなった……」
 おばさんは道端にござを敷いて、川で獲れた魚をよく干していた。その場所が変わった。道から離れた家の入口にござを広げるようになった。
 しかし朗報もあった。電気が通じたのだ。それまで資金のある家は小型の発電機を買って電気を起こし、テレビを見ていた。しかし一般の家は、ろうそくやランプだった。そこに電線が延び、電気が届いたのだ。村の人によると、10年ぐらい前に電柱が道に沿って立ったという。
 「ついに電気がくる……」
 村の人たちは色めきたったが、何年たっても道端に電線のない電柱が立っているだけだった。それが道の整備を追うように、前触れもなく電線工事がはじまり、ついに村に電気届いたのだ。
 もっともはじめの頃は、停電がしばしば起きた。夕方になると、一斉に電灯をつけるからだといわれた。それほどの電流しか流れていないのか……と思ったものだが、おそらく工事が杜撰だったためのような気がする。
 日本に帰るとき、プノンペンまでトゥクトゥクに乗ったことがあった。村の人が買い出しにいくという。そのトゥクトゥクに乗せてもらうことになったのだ。
 普通は村から20分ほど走ると出るメコン川をフェリーで渡るのだが、そのときは村から南下する道を延々と走った。
 「いつもと道が違うけど」
 「新しい道ができたんだ。こっちの方が早いんだよ」
 村の人が説明してくれた。
 道は急に広くなった。そして高速道路の料金所のような建物が見えてきた。そこに職員の姿はなく、トゥクトゥクは料金を払わずに通り過ぎた。
 「高速道路?」
 「将来はそうなるみたい。中国が道をつくっているんだよ」
 そういえば道端に、工事のときに車を停める看板やパネルが積みあげてあり、そこには中国語が書かれていた。
 中国──。
 中国は建設機材や資材まで本国から持ち込んでいた。きっと作業員もやってきたのだろう。中国スタイルだった。
 カンボジアの村が変わりはじめていた。
 それから毎年、その変化を目のあたりにすることになる。                      (続く)


下川裕治(しもかわ・ゆうじ)

1954年生まれ。旅行作家。アジア、沖縄に関する著作が多い。近著に『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』(新潮文庫)、『「生きずらい日本人」を捨てる』(光文社新書)。最新刊は『不思議列車がアジアを走る』(双葉文庫)
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